ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年08月19日
 ミスミソウ 2 (2) (ぶんか社コミックス ホラーMシリーズ)

 うんうん、あいかわらず胸糞の悪いお話であることよ。押切蓮介が描く『ミスミソウ』の2巻のことだけれども、不穏な気配が、まるでたゆたう流れを堰き止められたかのように溜まり、グロテスクな濁りをつくり出していた1巻を反動とし、びゅんびゅん悪意と殺意とが加速していく展開が導かれているのであったが、しかし、カタルシスとでもいうべき救済の効果は、未だ物語に訪れていない。エスカレートしたいじめによって、とうとう家族までをも失ってしまった春花は、狂気をその目に、そして凶器をその手に携え、クラスメイトたちを次々、容赦なく残忍に、抹殺しはじめる。正直なところ、春花の攻撃を受けて、登場人物らのあいだに浮き上がるのは、あまりにも素朴な鬱積に過ぎず、もうすこし陰謀めいた小利口さが彼らには働いていることを期待していただけに、ややはったりが弱まったかな、という印象を受けもしたけど、結局、こういう浅はかであるがゆえの極端を内に秘めているからこそ人間ってやつは怖い、のだと思う。ところで『このマンガがすごい!SIDE-B』に掲載されているインタビューで押切は、大西祥平が〈あと最近の押切作品って、テーマは違えど、どれも「家族」っていうサブテーマが必ず埋め込まれてる気がするんですが〉と尋ねているのに答え、〈ときどき人に『妹とか姉とかに何かあるの?』って言われるんですが、それはないんです。ただ、ウチの家族がもともと壊れてるっていうのはあるかもしれません(略)ただ、自分がそこに恐怖を感じたりということはないですね、逆に僕のマンガには『両親』の存在感が薄いと思っているんです。登場させても、全然『描けて』いなかったり〉と述べている。この、作者の言葉を鵜呑み、信じるのであれば、押切の作品においては、むしろ両親の存在感が薄くあることで、その不在的な環境が反対に強調され、備わっているとはいえまいか。両親、いや、とくに父親の不在は『ミスミソウ』にとっても重要なキイになっている。たとえば、春花に逆襲された生徒たちが助けを求めているのはあくまでも母親であって、行方不明になった息子を心配して担任教師の南に食ってかかるのも母親であり(その背後で控えめに立っているのが父親だろう)、春花を唯一気にかける相場晄もまた、父親ではなく、母親との関係に何かしらの確執を抱えていることが示唆されている。そういえば、いじめの首謀者である妙子の父親も家にはあまり居つかず、居つかないことが無責任なプレッシャーになっているふうである。このように『ミスミソウ』には、母親が子供とつよく関わる、積極的に庇護する立場としてあらわされているのに対し、父親の役割はずいぶんと後退させられているわけだが、そもそも主人公の春花を考えるなら、家庭を壊され、無くした彼女はもはや、父親の助けを借りられる立場からは逸脱しているので、自分と妹の祥子を自分の力で守らなければならないと自分に課するのだった。もちろん、こう見ていったとき、どこにでもありそうな地方都市を舞台に父権の損なわれた現代社会を捉まえている、と言ってみせることも可能であろう。だが、『ミスミソウ』がエモーショナルなのは、被害者の孤独が加害者の惨殺というかたちでしか贖えない、そういう不幸をこの世界がたしかに抱え持っていることの実感をなるたけ漏らさず、教えてくれるためにほかならない。

 1巻について→こちら

・その他押切蓮介に関する文章
 『プピポー!』
  1巻について→こちら
 『ゆうやみ特攻隊』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『おばけのおやつ』について→こちら
 『ドヒー! おばけが僕をペンペン殴る!』について→こちら
 『マサシ!! うしろだ!!』について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(1) | マンガ(08年)
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ミスミソウ 1~2巻/押切蓮介
Excerpt: この漫画はホラーMという比較的マイナーな雑誌で連載されているものなのですが、サスペリアミステリー、プリンセスゴールドと共に ここ最近地味に好きな雑誌の1つだったりします。 まぁ、好きなのには理由がある..
Weblog: だら~んと読み続ける
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