ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年07月30日
 蒼太の包丁 18 (18) (マンサンコミックス) (マンサンコミックス)

 テレビ・ドラマに劇場映画にと、さまざまな料理マンガが実写映像化されている今日この頃であるけれども、そうした原作にもっとも適していそうな『蒼太の包丁』がまだ手つかずとは何事か、というのは過去に何度も書いた。登場人物たちの背景はしっかりとしており、彼らは劇中の時間にそってちゃんと成長するし、単発で完結するすぐれたエピソードが何本も揃っているうえ、作者のイデオロギーを無理やり押しつけてくるところもなく、物語を追ううち大粒の涙がこぼれることもしばしある。たしかにウェルメイドな作風ではあるけれども、むしろ、そこが向いているような。いやまあ、べつに実写化をつよく望んでいるわけではなくて、ただ疑問に思うというだけの話である。しかしそれにしても、18巻という長丁場に入りながらも、相変わらず、真摯でぶれることのないおもしろさが、このマンガにはある。今までになかった大仕事を目前にして蒼太は父の危篤を聞く。周囲の人びとは、すぐさま北海道へ駆けつけるように言うのだが、はたして自身も料理人である父がそれを望んでいるのかどうか、このとき、蒼太のくだす決断がその後の展開を違えていくことになる。もちろん、ジャンルとしては料理マンガになるのだから、職人としての生き方がどうのこうのというのが重要なポイントではあるのだけど、蒼太とヒロインたちをめぐる恋愛のパートも動く動く。「富み久」の若女将であるさつきは、あくまでも料理を大事とする蒼太に違和感を抱き、いっしょに厨房に立つ雅美は、ますます腕に磨きがかかる蒼太への想いをつよくし、須貝と付き合いはじめ、蒼太をあきらめたはずの純ペイ(ところで、今さっき確認していて気づいたのだが、カヴァー折り返しの登場人物紹介で、この純子の名前が順子になっているんだけど、これって前からだったか)も、知らずのうち、蒼太と須貝の二人を比べてしまっている。しかしじつは、こうした三者の反応が、恋愛の要素を含めておけば物語の華になるだろう、の発想ではなく、働くことによって成人の将来はつくられていく、といった現実の認識を前提としている点が、『蒼太の包丁』の特色だと思う。夢を見ることと生活をしていくこととを二択化してしまうのは、ときに判断停止と変わらない。夢を見るなかにも生活をするなかにも、迷いや悩みはつかず離れず存在する。不安や挫折はどんな場合にも起こりうるのであれば、自分にできるだけのことを一個ずつクリアーしていくしかないんだろう。そうしたわずかな歩みの、積み重ね、繰り返しが、『蒼太の包丁』では、恋として、仕事として、成長として描かれている。

 17巻について→こちら
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posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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