ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2008年07月15日
 金が幸せとはかぎらないが、しかし金で救える不幸がある。これは、立原あゆみの諸作品に、ときおり顔を出すテーマである。この『本気(マジ)!』文庫版の4巻で、すずめたちのいる孤児院(教会)が借地であったため、立ち退きを迫られる、それを買い戻そうと本気が奔走するくだりは、その嚆矢ともいえるエピソードだろう。貧しい人びとを守ろうと心やさしいヤクザ者が大金を工面する、こうした展開を指し、お約束と判じるのは容易いけれど、立原のマンガを一通り読んでいったとき、それが決してドラマづくりに便利なパターンの採用を意味するのみならず、戦後以降、この国の社会が高度に資本化していくのが自然であったとしても、ついていけないものがあれば彼らをフォローすべき措置もまた必要なのではないかという、作者のささやかな異議申し立てであるふうに思える。文庫版4巻の内容に戻せば、本気の最初の兄貴分である桃次の仇討ちとゴロマキで名を売ってきた後藤の登場が連携しているのは印象的で、いうなれば桃次も後藤も暴力に訴える旧式のヤクザなのだが、どちらも金の勘定に長けた新式のヤクザに敗北する。むろん、それを革命と解釈することも可能であり、結局のところ社会の理にそった流れにほかならないのかもしれない。だが同時に、古くから相伝されてきた任侠が窮地に立たされてしまい、任侠に守られていた弱者もまた危機に瀕しなければならい事態が発生している。こうした時代の変わり目、移り目のせめぎ合いにおいて、本気は自らに防波堤の役割を課す。やがての関係はともかくとして、金儲け主義の急進派ヤクザ染夜が当初、本気とライバルにあるのは、両者の姿勢の反映でもある。さて。孤児院(教会)を救済すべく、6億円(正確には未払いの3億円)もの大金を集めなければならず、四苦八苦する本気であったが、あと1億のところで足りない。しかし風組の総長である風岡が横から助け船を出してくれたおかげで事無きを得る。それまであまり金に執着を抱くことのなかった本気は、風岡に感謝して〈たかが銭とばかにしてたがよう かわいいもん守るにゃ銭もいる 考えたくもねえが あいつらいつ何があるかわからん ケガでん病気でん銭がなくて助かるもんも助からねえじゃつれねえじゃねえか〉と思う。これがすなわち、金で救える不幸があるという、最初に述べたようなテーマに繋がっている。それにしても、どうしてこう、風岡は、本気に肩入れするのか。以下は、文庫版4巻の内容と直接に関係のない余談である(だが、物語がいちおうは完結している現在からあらためて文庫版4巻を読むとすれば、まったく無関係と見なすことのできないポイントでもある)。

 なぜ風岡は本気に対して過剰な肩入れをするのか。これを考えるにあたっては、『本気!』本編よりも、番外編の『風』に目を通しておく必要があるだろう。風岡の若かりし日を描いた作品である。風岡がヤクザになった経緯を教えてくれる。風岡とは、そもそも学生運動の士であった。しかし、義を失った闘争に空しさを覚え、大学を去り、流浪する。そこでチンピラの竜二と出会い、人柄を見込まれ、極道に誘われるのだけど、ヤクザの抗争もセクトの抗争もいっしょ、しょせん暴力が幅をきかせ、金の前には転ぶのだと、これを断る。だが、堅気の平和を守ろうとし、命を懸け、散った竜二に〈自分の中の闘争は……………………自分のための闘争ではなかったはずだ 少なくとも自分以外の幸福のため………………民のためあったはずだ………………〉と、目指していたはずの道をあらためて示され、争いのない社会の礎となるべく、極道の世界を再編するための組織、風組を起こす。のちに出会うことになる本気の姿は、風岡にとって竜二のそれを思い出させる。もちろん『風』で語られているのは、後付けの設定に近しいものであるけれども、本編の内容を補うのに十分な材料であることもまた事実にほかならない。いつの時代もどのような営みにも悪はある。逃れがたく悪しき側面が存在するのであれば、同様に善なる部分もかならずやあって欲しい。そうした祈りが本気に託されているのである。

 3巻について→こちら
 1・2巻について→こちら

・その他立原あゆみに関する文章
 『仁義S』
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら 
  3巻について→こちら
 『恋愛』1巻について→こちら
 『極道の食卓』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | マンガ(08年)
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