ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2015年01月12日
 かみさまドロップ 6 (少年チャンピオン・コミックス)

 みなもと悠の『かみさまドロップ』は、冴えない少年のもとに形而上の世界から美少女がやってきたことをきっかけとし、ハーレム状の環境が作られ、当然、ラッキーなスケベやサービス・カットもあるよ、といったタイプのラブコメとなっている。が、ライトなファンタジーを基調としながらも、どことなく暗い影の随所に差している点が特徴であるように思う。そして、その影は巻数を増すごとに強まっているようにも感じられる。

 この手のマンガにとっては定番ともいえるし、大抵は明るく描かれるはずのリゾート編にあたる前巻(5巻)で何が起きたのかを見てみよう。6巻における登場人物の言葉をそのまま借りるのであれば、主人公は〈好きな女と旅行に行ったら・その女の許嫁に女を連れ去られたあげく・打ちとけたと思っていた彼女のことを実は何もわかっておらず・ただただ一人で浮かれて舞い上がっていただけという現実をつきつけられて〉しまったのであった。要するに、瓢箪から駒の出来事に喜んでいたつもりが、泣きっ面に蜂みたいな状況に一転してしまうのだ。

 そもそも『かみさまドロップ』は、不幸を招きやすい資質の主人公の片想いを天界から追放された「神」である美少女が失われた自分の力を回復するためにサポートしなければならないというアウトラインを持っている。もちろん、主人公の片想いの相手もまた高嶺の花のような美少女である。三者のバランスは、三角関係を思わせる。しかし、それ以上に注意されたいのは、三者が皆、本来あるべき可能性を剥奪された存在として共通していることにほかならない。おそらく、そうした三者の共通項によって作品全体にどことなく暗い影が運ばれてきている。

 主人公の願いを引き受けたエル(得)は、父親から「神」である資格と力とを無効にされており、主人公の片想いの相手、クラスメイトのバンビ(姫橋万里)は、圧倒的な権力を有しているらしい許嫁に支配され、不自由に暮らしている。そして、主人公の野分あすなろは、ありとあらゆる幸運から見捨てられ、ごく普通の同級生たちとは程遠い高校生活を送らざるをえない。『かみさまドロップ』とは、ライトなファンタジーのラブコメである一方、彼ら三者が本来あるべき可能性を取り戻していくような姿を描いているといえる。

 ラブコメと呼ばれるマンガの多くには、主人公の決断を先送りにすることで、エピソードを増産する傾向がある。だが、『かみさまドロップ』に関しては、エピソードのたびに何かしらの決断を主人公は迫られる。決断を誤ることもあるが、それは本来あるべき可能性を取り戻すための奮闘と同一視できるものであろう。この6巻に収められた主人公の姉のエピソードは、非常に印象的だ。わずかなほころびをきっかけに仲違いしていた姉弟の和解を描いたエピソードである。

 本当は嫌い合っているわけでもないのに仲違いをしてしまった姉弟に対し、エルはこう言う。〈……お互いに自分の中で勝手に結論を決めて・勝手にいじけて・引っこみのつかなくなるところまで自分を追いつめて……〉と。そして、それは主人公と姉の関係のみならず、主人公とバンビの関係や主人公とエルの関係にまで敷衍できるセリフであり、誤った運命は必ずや正せるという意味の忠告となっている。