
たとえばTHE GASLIGHT ANTHEMがパンク・ロックであり、ラナ・デル・レイがサッドコアであるような時代(アメリカ)の、これはもしかしたらポスト・パンクであって、ポスト・ハードコアなのではないかと思う。前身のEND OF A YEARから改名し、他のバンドとのスプリットを含め、いくつものEPを発表してきたニューヨーク出身のSELF DEFENSE FAMILYだが、初のフル・アルバムとなるのが、この『TRY ME』である。しかしまあ、バンドの編成がよくわからないところもあるし、実際のサウンドもアルバムの内容も一概にはこうだと形容できないものだといえる。
基本的にはミドル・テンポを主体としたエモイッシュなロックである。スポンテニアスな演奏のなか、ゆらゆらとしたグルーヴがある。しゃがれ声のヴォーカルはブルーズのようでもあり、フォークのようでもある。部分的にだが、90年代頃のニール・ヤング、あるいはニール・ヤングと合体した時期のPEAL JAMをも思わせる。オルタナティヴ・カントリーに近いところもある。CAMPER VAN BEETHOVEN、もしくはCRAKERあたりに通じるテイストもある。前衛というのではないけれど、スタイルに囚われない多様性が、どうしてかストイックなまでの一貫性と同居している不思議さ。ちょっとばかり耳にした感じは地味なのに、演奏のパターンを巧みに繰ることでサウンドへ訴求力と呼ぶのに相応しい奥行きを作り出しているのだった。
個々の楽曲が際立っているというより、それらの連なりがじりじりとした焦燥と陶酔(ときには倦怠)を醸していき、アルバムをトータルで魅力的にしている。女性ヴォーカルが入ったり、メインになっているナンバーもあるが、それもまた作品の全体像に寄与するものであろう。アートワークを含め、どうやらアンジェリク・バーンスタインというポルノ女優を題材にしたコンセプトを持っているらしく、6曲目と11曲目に演奏はなく、長いモノローグ(インタビュー)となっている。自分は英語が堪能ではないので、モノローグの意義を汲み取ることはできないのだけれど、これをアナログ・レコードやカセット・テープの仕様になぞらえるなら、要するにA面とB面とを区切る構成になっていることがわかる。確かに1曲目から5曲目までと7曲目から10曲目までとでは、いくらか雰囲気が違う。ギターの響きに激しさを加え、ハードコアのシーンに接続されるようなパッションがよく出されているのは後半において、である。
10曲目の「DINGO FENCE」は10分にも及ぶ。延々リピートされるコードにそって〈All the dumb cocks, they get what they want〉〈All the dumb cops, they what they want〉というコーラスを繰り返す。アルバムの前半、とりわけ3曲目の「TURN THE FAN ON」や5曲目の「APPORT BIRDS」と呼応したサイケデリアが、濃い染みにも似た哀愁と入り混じる。レーベルのDEATHWISHのなかでも異色のアーティストだろう。個性派だ。
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