ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2014年02月14日
 Try Me

 たとえばTHE GASLIGHT ANTHEMがパンク・ロックであり、ラナ・デル・レイがサッドコアであるような時代(アメリカ)の、これはもしかしたらポスト・パンクであって、ポスト・ハードコアなのではないかと思う。前身のEND OF A YEARから改名し、他のバンドとのスプリットを含め、いくつものEPを発表してきたニューヨーク出身のSELF DEFENSE FAMILYだが、初のフル・アルバムとなるのが、この『TRY ME』である。しかしまあ、バンドの編成がよくわからないところもあるし、実際のサウンドもアルバムの内容も一概にはこうだと形容できないものだといえる。

 基本的にはミドル・テンポを主体としたエモイッシュなロックである。スポンテニアスな演奏のなか、ゆらゆらとしたグルーヴがある。しゃがれ声のヴォーカルはブルーズのようでもあり、フォークのようでもある。部分的にだが、90年代頃のニール・ヤング、あるいはニール・ヤングと合体した時期のPEAL JAMをも思わせる。オルタナティヴ・カントリーに近いところもある。CAMPER VAN BEETHOVEN、もしくはCRAKERあたりに通じるテイストもある。前衛というのではないけれど、スタイルに囚われない多様性が、どうしてかストイックなまでの一貫性と同居している不思議さ。ちょっとばかり耳にした感じは地味なのに、演奏のパターンを巧みに繰ることでサウンドへ訴求力と呼ぶのに相応しい奥行きを作り出しているのだった。

 個々の楽曲が際立っているというより、それらの連なりがじりじりとした焦燥と陶酔(ときには倦怠)を醸していき、アルバムをトータルで魅力的にしている。女性ヴォーカルが入ったり、メインになっているナンバーもあるが、それもまた作品の全体像に寄与するものであろう。アートワークを含め、どうやらアンジェリク・バーンスタインというポルノ女優を題材にしたコンセプトを持っているらしく、6曲目と11曲目に演奏はなく、長いモノローグ(インタビュー)となっている。自分は英語が堪能ではないので、モノローグの意義を汲み取ることはできないのだけれど、これをアナログ・レコードやカセット・テープの仕様になぞらえるなら、要するにA面とB面とを区切る構成になっていることがわかる。確かに1曲目から5曲目までと7曲目から10曲目までとでは、いくらか雰囲気が違う。ギターの響きに激しさを加え、ハードコアのシーンに接続されるようなパッションがよく出されているのは後半において、である。

 10曲目の「DINGO FENCE」は10分にも及ぶ。延々リピートされるコードにそって〈All the dumb cocks, they get what they want〉〈All the dumb cops, they what they want〉というコーラスを繰り返す。アルバムの前半、とりわけ3曲目の「TURN THE FAN ON」や5曲目の「APPORT BIRDS」と呼応したサイケデリアが、濃い染みにも似た哀愁と入り混じる。レーベルのDEATHWISHのなかでも異色のアーティストだろう。個性派だ。
 
 バンドのオフィシャル・サイト→こちら
posted by もりた | Comment(0) | TrackBack(0) | 音楽(2014年)
2014年02月05日
 蒼太の包丁(41)完結 (マンサンコミックス)

 コミックスの奥付に、この41巻は「平成24年11月6日号より平成25年3月5日号までの漫画サンデーに連載されたもの」とあるので、それから少々間が空いたことになるけれど、無事に最終巻の出た『蒼太の包丁』である。おそらくは掲載誌の休刊に合わせた完結だったのだろうが、きちんとまとまり、ほとんど過不足のないエンディングが描かれているように感じられるし、その見事さは、マンガの内容と相まって、作者(この場合は末田雄一郎と本庄敬)の誠実であるような姿勢と結びついた成果なのかもしれないね、と思わされる。いずれにせよ、満足と同義に見られる大団円が描かれているのだった。

 再三述べてきた通り、『蒼太の包丁』は、日々の営みを時間軸のタテ糸として強調し、これに変化を盛り込むことで、(エピソード単位でストーリーを量産していく料理マンガによくある)人間模様のスナップである以上のドラマを具体化していた。完結にあたり、主人公である蒼太の成長を見守ってきた読み手が最も関心を寄せるのは、やはり、彼の姿が以前とはどう違っているのか、だろう。老舗で働く料理人として店の看板をいかに引き受けるか。そして、そこから自分が独立するためには何が必要か。中盤以降、蒼太が対峙しなければならなかったのは一種の背反だったわけだが、クライマックスに至って、充分に納得のいく答えが出されている。また、二人のヒロイン、さつきと雅美のどちらを蒼太が選ぶのか。まあ、ラヴ・ロマンスが主要な作品ではないとはいえ、それについても、三者が収まるべきところに収まったという印象である。

 将来の「夢」は近づくこともあれば、遠ざかることもある。だが、遠ざかってもなお近づいていこうとするその意志こそが、『蒼太の包丁』においては、時間軸のタテ糸と変化とに試されるものだったのかな、と思う。岐路に差し掛かったとき、蒼太は〈目指すものがあるなら何かが変わっていかなきゃいけないんだ 僕だって今までの修行や経験でそれはわかってるつもりなんだけど…〉と躊躇うばかりでなく、〈為せないことや足りないことを挙げてって 首をひねっているだけではダメだ〉と認識せざるをえない。はっきりいって、周囲の人間が積極的なのに比べ、蒼太はあまりにも消極的すぎる。しかしそれは歩幅の問題にすぎない。小さなストライドであろうと絶えず前に進み続けること。その恩恵は確かにあると、物語の終わりは、蒼太はもちろん、他の登場人物たちの幸福であるような表情を一巡りするなかに伝えている。

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