ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2013年12月10日
 ペーパーブレイバー 1 (少年チャンピオン・コミックス)

 それが洗練なのか単なる野暮なのかはともかく、極めて現代的で世俗的な認識や価値観をメタ・レベルに設定することで剣と魔法のファンタジーやRPGのルール・ブックを吊し上げ、一種の倒置法として魔王や勇者を描くというのは最近の流行りである。そうしたトレンドのフォロワーに、このマンガ、藤近小梅の『ペーパーブレイバー』も入れられると思う。ルール・ブックをルール・ブックたらしめるのに必要なコンテクストをあえて理解しない。こうした態度は所詮、子供じみた遊びみたいなもので、そこにシリアスなテーマを被せたりしている作品を見ると、ちょっと白けてしまうときがあるのだったが、『ペーパーブレイバー』の場合、「あくまでもギャグですよ」式のスタンスを徹底している。本質はドタバタした学園もののコメディなのだろうし、ドタバタを展開するにあたり、リアリティをいったんワキに除け、モラトリアムのシンパシーを仮想化するために剣と魔法のファンタジーやRPGのルール・ブックが挿入されているといえる。

 実際、作品の舞台は、現実の世界(現代の日本)の至るところに遍在していそうな男女共学制の高校であって、なぜか主人公は、魔王を倒さなくてはならない立場なのに、平々凡々とそこへ通っている。ここで重要なのは、彼がレベル1から一向に成長していない未熟な勇者だという点である。これはもちろん、学園ものに古くから見られる軟弱で取り柄の少ない少年が主人公のヴァリエーションでもある。主人公の怠さを隠さないニヒリズムのような態度は、今日における若者の気分あるいは趣味を含んだ造形なのだろう。ルックスが良く描かれているのもそうかもしれない。が、彼が自分でアクションを起こさない代わり、彼と因縁のある登場人物たちが次々と関わってき、彼に無理やりでもリアクションを起こさせる。これがコメディの推進力となっている。正直なところ、序盤は、ワン・アイディアだなあ、ぐらいにしか思わないのだけれど、連載が続くにつれ、作者がペースを掴んできたからなのか、登場人物の個性とそれらのコンビネーションとができあがってくるからなのか、次の一コマに期待させられるだけの魅力を持ちはじめる。

 この1巻の終盤のエピソードには、アクションもあって、ストーリー形式の連続性も見られる。たぶん、そちらがメインになることはないと思われるものの、作品自体の可能性は着実に広がっている。
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 クロコーチ(3) (ニチブンコミックス)

 ストーリーの進みは現在、こちらのリチャード・ウー(原作)とコウノコウジ(作画)によるマンガ版より、それを元にしているはずのテレビ・ドラマ版の方がいくらか先行している感もある『クロコーチ』だが、実際、両者の制作過程にどのようなコンセンサスが取られているのかはわからないのだけれど、ベースとなっているエピソードに決定的な違いはないと思われる。それはつまり、作品を成り立たせている大まかなパーツは一緒だということである。まあ、同じ登場人物であっても年齢や性別、性格などに違いの顕著な者もいるにはいる。しかし、そのことが必ずしもエピソードの違いとはなっていない。そこから一つ推測できるとしたら、『クロコーチ』の場合、エピソードが「主」であり、登場人物が「従」の方法論によって、作品が組み立てられているかもしれないことであった。要するに、三億円事件をヒントにしながら警察を巨大な権力として、警察の内部を巨大な陰謀論として描こうとしてることが、マンガ版とテレビ・ドラマ版の内容を一致させているポイントなのではないか。

 他方、国家レベルのヒストリー(戦後史)をアレンジしつつ、それを多国籍的なクライム・サスペンスに落とし込むというのは、リチャード・ウー(長崎尚志)が関わってきた作品によく見られる趣向であろう。これを念頭に置いて、大まかなパーツを共有しているマンガ版とテレビ・ドラマ版とを比較するとき、リチャード・ウーの原作におけるテクニックみたいなものがうかがえてくる。おそらくは長編のストーリーを複数のエピソードにバラし、その複数のエピソードをあたかもジグソー・パズルのピースのように扱い、あらかじめこうと定まった枠のなかに順不同で組み合わせていく。このプロセスを読み手は全貌の隠された「筋」として見ているにすぎないのである。もちろん、登場人物は(その行動を含め)複数のピースを跨いだり繋いだりする「絵」の役割を果たしているわけだ。そして、語弊をおそれずにいえば、コウノコウジの作風は、そうした「絵」にえげつない魅力を与えるのに相応しい。

 最初に、マンガ版とテレビ・ドラマ版とでは大まかなパーツは一緒と述べた。けれど、この3巻からは、クライマックスに向かってか、あるいは連載の長期化に向けてか、独自の展開が顕著になりはじめている。無論、テレビ・ドラマ版が独自の展開に入っているという言い方もできる。が、マンガ版の場合、リチャード・ウーとすぎむらしんいちのタッグによる『ディアスポリス 異邦警察』の他、江戸川啓視名義でクォン・カヤと組んだ『プルンギル -青の道-』や石渡洋司と組んだ『青侠 ブルーフッド』にあった異邦人の介入と猟奇的なイメージとが強調化されていっているようだ。

・その他コウノコウジに関する文章
 『ゲバルト』1巻について→こちら
 『肉の唄』
  3巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『アウト・ロー』(原作・木内一雅)13巻・14巻について→こちら
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