ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2013年10月22日
 本気! 外伝クジラ(1) (プレイコミックス)

 そもそも『極道の食卓』には、ヤクザ、学校、政治、子供、グルメ、と立原あゆみのキャリアを総括しているところがあった。他方で代表作である『本気!』のセルフ・パロディといおうかセルフ・オマージュといおうか、読み手に『本気!』を参照させることでコメディを成り立たせているようなところもあった。それが「獄中編」を経、この『本気!外伝 クジラ』では、題名にある通り、ついに『本気!』のストーリーと直接関わり合うこととなっている。なるほど、確かに『本気!外伝 クジラ』とは、『極道の食卓』の続編であるし、『本気!』の外伝となっているのである。

 作品のフォーマットは『極道の食卓』そのまま、つまり「食」をテーマにして一話完結に近いエピソードが作られているのだが、このエピソードのなかに『本気!』シリーズのダイジェストが盛り込まれている。マンガとしてはかなり特異なスタイルだといえる。たとえば、人気のあったテレビ・ドラマが終了後、総集編のスペシャル番組が作られることがある。その際、新規の撮影パートを加え、回想の形式でレギュラー放送をつなぎ合わせていくことがある。それを思わせる。しかしそれが立原のマンガにお馴染みのサンプリングといおうかカットの使い回しといおうか、要するにコピー・アンド・ペーストの技法とここまでマッチしようとは。実に正しい『極道の食卓』と『本気!』のマッシュアップなのではないか。

 中身の方をシリアスに見ていくなら、現在進行形の語り手である久慈雷蔵が、回想のなかに置かれた主人公である白銀本気の活躍を振り返るとき、そこにはおおむね、喪われてしまった人間に対しての感傷が寄り添っている。無論、作中の本気(マジ)は死んではいない。ちゃんと生きている。従って、語り手が感傷を寄り添わせている対象とは、あくまでも『本気!』シリーズを通じ、その物語の最中に命を落としていった登場人物たちになるのだった。が、ここで、本来は久慈雷蔵のものであるはずの語りが、構造のレベルにおいては所謂神の視点と同化していることに注意されたい。神の視点を語り手が所有しているかのような語りは、立原あゆみの諸作に共通する要素でもあるだろう。そしてそれが、先のコピー・アンド・ペーストの技法と並び、『極道の食卓』と『本気!』の二つの作品を『本気!外伝 クジラ』という一つの作品にまとめ上げる大きな基礎となっているのだ。

 もちろん、久慈雷蔵による喪われてしまった人間に対しての感傷は、老年期に入った作者自身の感傷を同時に代弁しているに違いない。さらにそれは、失われようとしている伝統的な風景や東日本大震災以降の復興に向けられた悲哀にまで敷衍されている。『仁義』シリーズの新作である『仁義 零』にも、東日本大震災以降の風景が現れていたけれど、そこには作者の実感であったり関心であったりが色濃く出ているのだと思う。あるいはそこに90年代に原発誘致の問題を描いた『花火』の残像を重ね合わせることもできる。おそらく、過去作からの引用は『本気!』ばかりに止まらない。療養中の五社谷に魚を届けにくる漁師、あれはもしかしたら『当選』の主人公なのではないか、とかね。『極道の食卓』がそうであったように、『本気!外伝 クジラ』もまた、立原のキャリアを総括しつつある。

・その他立原あゆみに関する文章
 『火薬』について→こちら
 『仁義S』
  12巻について→こちら
  11巻について→こちら
  10巻について→こちら
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
 『涙星〈アース〉チンピラ子守歌』1巻について→こちら
 『本気』文庫版
  9巻について→こちら
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  1・2巻について→こちら
 『本気!〜雑記〜』第1話について→こちら
 『恋愛』
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『極道の食卓』
  8巻について→こちら
  7巻について→こちら
  6巻について→こちら
  5巻について→こちら
  4巻について→こちら
  3巻について→こちら
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『ポリ公』
  4巻について→こちら
  2巻について→こちら
 『月の教室』について→こちら
 『喰人』1巻について→こちら
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