ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2012年01月09日
 WORST 28 (少年チャンピオン・コミックス)

 ついに鈴蘭史上初の番長が誕生した。時を同じくして、巨大な萬侍帝国に不穏な動きが広まりはじめる。ぬおお、これは熱くならざるをえまいよ、があああっ、なんて言うと思ったか。確かにストーリーは、完結に向け、着実に大きな変化を見せてきてはいるのだけれど、シークエンスそれ自体に魅力は乏しく、アップを多用した派手なカットが手癖にしか見えない面もあるため、いくらか盛り上がりに欠ける。しかしまあおそらく、ここから真のクライマックスに入っていき、手に汗握るような場面も出てくるのだろう。信じたいところ。

 90年代に『クローズ』でハロルド作石や井上雄彦の技法を横目にしつつ80年代のヤンキー・マンガとは一線を画すことに成功したのが高橋ヒロシである。だが、そこで確立された作風は『WORST(ワースト)』の長期連載中、ともすればマンネリズムに等しい印象を持ってしまった。もちろん、それを作者のぶれないイズムとしたい向きも少なくはないので、いまだに十分な支持が得られていると考えるべきなのかもしれない。

 以前にも指摘した気がするが、当初の『WORST』には、たぶん海外のギャング映画を強く意識しているのだろうな、と思わせる部分が色濃かった。自らをアウトサイダーとして引き受ける不良少年たちの造形や、彼らを結束させるファミリーという概念の頻出に、それは顕著であったろう。一方で、主人公である月島花の笑顔とサムズアップ、あれは明らかに『仮面ライダークウガ』のヒーロー五代雄介の引用である。ここで不良少年たちのイメージが初代『仮面ライダー』の敵役ショッカーに重ねられていた『QP』を引き合いに出すのであれば、『WORST』とは、ヤンキー=ショッカー=マフィアの喩えに悪のレッテルが貼られるとき、五代雄介みたいな正義漢を対置するのではなく、もしも同じ立場としてその自由を奪わずに放り込むことができたなら、何かポジティヴな化学反応が起きるのではないか、式の試みと解釈することが可能だったはずだ。

 ただし、物語が進むにつれ、国盗り合戦、軍記物のフォーマットに作品の構造は純化、抗争のための抗争が繰り返されると、青春と学園の枠組みは後退し、大立ち回りの場を次々与えられたワキの人物らが人気を博すのはいいが、反動的に花のカリスマ・アピールがなおざりになってしまったのは痛し痒し、であろう。

 冒頭で述べた展開がこの28巻に訪れているわけだけれど、どうしたって花が春道や九里虎の先行世代より大物には思われないし、数以外で萬侍帝国が他を圧倒する理由があまりよく伝わってこない。一つにはここまでの積み重ねがそれらの脅威とは別のものにあてられていたせいである。無論、前者に関しては先行世代にはなかった資質を花だけが備えていたと読めるわけで、後者に関してはこれから存分描かれるに違いないと踏める。したがって今後に真のクライマックスを期待したいというのも最初に言った。

 また、ここで注意しておきたいのは、ファミリーという概念が、萬侍帝国との対決を意識した武装戦線、村田将五の口を通じ、あたかも重要なテーマを再確認するかのごとく、浮上している点だ。コミックスの裏表紙にまで引かれるほどそのセリフは28巻のなかである種のハイライトを為している。いわく〈だがそれでも戦おう・自由を奪われるわけにはいかねー・野郎ってーのは自由と女とそしてファミリーのために立ち上がるもんだ〉なのだったが、アウトサイダーたる不良少年たちが「自由」のために「立ち上がる」のは至極当然のこととして、周知の通り『WORST』にはほとんど「女」の人物は登場しない。そうであるならば「ファミリー」の一言こそが、実は最も示唆に富んでいるのではないか。

 しかしてその「ファミリー」は、鈴蘭史上初の番長に花を推挙する九里虎の、こういうセリフと間違いなく呼応している。〈わしはこげな男や! ワがためンしかケンカはせんバイ! 仲間のためやらツレのためやら・そげなもんアホらしか〜って男バイ! バッテンあいつは・花はちがうやろ! お前らんごたるしょーもなかボンクラどもんために一緒に血ば流し一緒に泣きよる男やろが! 今どきめずらしか〜大バカモンタイ!〉

 結局、これなんだよなあ、花道や九里虎になくて花にのみ備わった資質ってのは、といえるだろう。そして鈴蘭の統一を果たした花の目に映っているのは、決して周りは敵ばっかりの世界ではない。〈ホントに敵なのか? 鳳仙… 竜胆… 武装… ホントはこの同じ街に住み・同じにおいがする仲間なんじゃねーのかな…〉という問いがそれを代弁している。このとき、鈴蘭の花と武装戦線の拓海が、梅星一家なるファミリーの絆で結ばれているのを伏線と考えてもいい。他方、萬侍帝国、九頭竜會會長のビスコ(蛭子幸一)が〈勝ち続けでかくなった萬侍帝国… 今 オレたちに必要なのは「大いなる敗北」かもな…〉と自身たちの先行きを占っているのは、否応なく『クローズ』の終盤で九頭神竜男が坊屋春道と相まみえたあのくだりを思い起こさせる。がゆえに、ビスコが〈ああ… そんな奴らがいたらの話しだがな…〉と続けているのを看過してはならない。

 春道と竜男のそれは、一対一の、正しくタイマンであった。『WORST』の場合、集団VS集団の決戦になるだろうことが、もしかしたらビスコの「奴ら」という複数形に暗示されているのであって、共同体の換言であるようなファミリーという概念も必ずやそこにかかっているのである。

 22巻について→こちら
 21巻について→こちら
 20巻について→こちら
 17巻について→こちら
 11巻について→こちら

 外伝について→こちら

・その他高橋ヒロシに関する文章
 『鈴蘭男子高校入学案内』について→こちら
 『クローズイラストBOOK』Vol.1について→こちら
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