ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年10月29日
 ドミノ (マーガレットコミックス)

 山口いづみの『ドミノ』は、とにかくその表題作に見入らされるものがある。全三話で成り立った長めの短編とでもいうべきマンガである。作者のこれまでと比べるなら、他の作家をよく勉強し、吸収、取り入れ、とくに絵柄や構図のレベルにおいて、従来の作風とは異なったところを出してきているのだったが、それが下手な色気とはならず、上手い具合に引きの強さをつくり、随所にさわやかでいて、自然と気持ちの高まる風をふかせる。

 ストーリーは以下のようなものであって、ことさら凝ってはいないだろう。子供の頃から好いている央太と高校でも一緒になれ、心を弾ませる柚子であったが、ケンカの噂が絶えない問題児の仁科と同じクラスになってしまい、彼と顔を突き合わせるたび、互いの印象を悪くしていく。しかし央太がもう一人の幼馴染み、千春と付き合うことになり、意気消沈する柚子を励まし、元気づけたのは、意外にも仁科の気遣いであった。また、物怖じしない性格の柚子と接するうち、他人に対してナーヴァスになっていた仁科にも変化があらわれはじめる。

 要するに、犬猿の仲を思わせる男女のあいだに恋愛感情が生まれるまでを「ドミノ」は描いていて、まあそれ自体は特筆すべきトピックになりえないのだけれども、登場人物が少なく、ひじょうにシンプルな筋のなかで、たった一つの出会い、関わりが、いかにそれぞれの心を動かすかを、すでに述べたとおり、不器用な様子がドラマティックにも感じられるほどのさわやかさ、場合によってはそれが藍より出でるぐらいの青さをもって、掴まえられているのだ。

 もしかすれば、小玉ユキの『坂道のアポロン』や吉田秋生の『ラヴァーズ・キス』等に見られるような、自己表現が拙いあまりに屈託した少年像を、あくまでも少女の視点や所感を引き出すために擁し、物語の本質をまったく『別冊マーガレット』のカラーに染め直した作品、という印象を抱く。だがそれが、こんなにも心地の好いエモーションを連れてきてくれることが、何よりも嬉しい。コミュニケーションというのは、実に不思議なものである。ちぐはぐ、絡まり合って、しばしば厄介になる。でもそこからがほんとうのスタートではなかったか。面と向かい、会話を重ねるにつれ、次第に表情を変化させる柚子と仁科の姿は、ちょうどそのことを教えているのだと思う。

 表題作のほか、もっとも先に発表された「夏月花」には、作者の本来の持ち味がよく出ている。「小さな世界で」には、「ドミノ」へと繋がっていく試行錯誤を求められる。いずれも習作にとどまらない魅力を放っている。

・その他山口いづみに関する文章
 『ハルフウェイ』について→こちら
 『アカンサス』
  2巻について→こちら
  1巻について→こちら
 『キリン』について→こちら
 『恋愛幸福論』について→こちら
 『HAPPY DAYS』と『ビターチョコレイト』について→こちら
 『ロマンチストベイビー』について→こちら