ときめいて死ね!!
いいや、戦って死のう。
2010年03月30日
 my little world (マーガレットコミックス)

 この佐藤楓の読み切り作品集である『my little world』には、小さくて素敵な恋の物語が五つ入っている。なかでもとくに良いと思われるのは、連作仕立ての表題作にあたる「my little world〜若葉〜」と「my little world〜咲季〜」の二篇である。前者では市村若葉という中学一年生の妹を、後者では市村咲季という中学三年生の姉を、マンガの主人公に置きながら、それぞれの片想いを描いていくのだけれども、性格や印象、タイプの異なる二人の、しかし、その恋の実らないかもしれない可能性においては等しく胸を痛めなければならないことが、つまりは大勢にとって〈叶わなくて 苦しくて 誰にも言えなくて 私だっていっしょだよ〉という経験の決して他人事ではないところをよく掴むことで、こちら読み手との距離を近くしている。たしかに、幼馴染みへの告白に踏み切れない、年齢と立場が異なるため躊躇わざるをえない、といったストーリーは、紋切り型の一種であろう。だが、話の運び、ポエジー、作中人物の表情のよさが、いやこれもまた誰かの亜流といわれてしまいそうな部分もなくはないとはいえ、ああ、せつなさを噛みしめてあとに残る情緒の、なんて心憎いことかよ、を信じさせてくれる。不器用な少年の一途さを、ヒロインの視点から覗いた「コズミックワンダー〜乙女とライオン〜」もなかなかなのだけれど、デビュー作であるらしい「Sweetest goodbye」の、短いページのなか、ぎこちなくではあるものの、我が儘な恋人に振り回される側の弱気を精いっぱいのつよがりに持っていき、二人のあいだにコミュニケーションの魔法をかける、その手つきも悪くない。これは他の篇にもいえることだが、作者の魅力は、素直になれない男子のイメージとそれを視認しようとする具体的なプロセスによって、おおきく担われている。
 君じゃなきゃダメなんだ。 3 (マーガレットコミックス)

 もちろんのように、タネもハラも違えばまったくの他人になりえるものの、タネかハラが一緒であればまったくの他人というわけにはいかない。ふつう、近親相姦型のラヴ・ストーリーは、主体と対象の関係がそうした区別のどちらに分かれるのかを謎めかし、もったいつけながら、恋慕と抑圧のシーソーを盛んにしていくものであるが、田島みみの『君じゃなきゃダメなんだ。』の場合、わりとあっさりネタを割ったところから、イケメンさん二人とヒロインの、はらはら、をあいだに挟んだ共同生活を描いているのだけれども、これがなかなかにおもしろい構成を作品にもたらしている。要するに、血の繋がった兄妹がそれまで離ればなれであったのをどう歩み寄ってゆくか、と、血の繋がらない兄妹がお互いを異性として意識してしまうことの困難、を、ほぼ同時進行、パラレルに展開しているのである。物語のレベルにおいては、特筆すべき点はすくないかもしれない。たとえば前巻やこの3巻に見られるようなくだり、性格に裏表のあるワキの人物たちが、菜花、蒼と紅、の付かず離れずにちょっかいをかけてき、追い追い、雨降って地固まる、式の進捗をもたらすというのは、学園をベースにした少女マンガのジャンルにパターン化されたセオリーだろう。しかし『君じゃなきゃダメなんだ。』が興味深いのは、先述したとおりそのなかに、軸足を同じくする二つのステップを埋め込んでいる点であって、もちろんそれを可能にしているのは、主人公である菜花の、良くいえば純粋すぎる、悪くいえば世間知らず、な資質にほかならない。彼女は、血縁のある蒼を肉親として見るのに疑いがない一方、血縁ではない紅を素直なほど肉親から外れる可能性で眺めてしまう。これが結果として、蒼にも紅にも影響を与えることになっている。心理の部分に深い葛藤のほとんどないぶん、キュートな戸惑いを際立たせ、家族と恋愛のテーマをあっさり、一挙両得しようとしている機能性に、作品の魅力はあるのだと思う。

 1巻について→こちら

・その他田島みみに関する文章
 『学校のおじかん』
  17巻について→こちら
  13巻について→こちら
  12巻について→こちら
  9巻について→こちら
  5巻について→こちら